DX推進に欠かせない「アクセシビリティ」とは?――誰もが使えるITを実現するための基本設計

DX推進に欠かせない「アクセシビリティ」とは?――誰もが使えるITを実現するための基本設計

DX推進に欠かせない「アクセシビリティ」とは?――誰もが使えるITを実現するための基本設計

本記事で解決できるお悩み

  • DX推進の中で「アクセシビリティ」という言葉を聞くが、具体的に何をすればよいのかわからない
  • Webサイトやシステム開発において、アクセシビリティ対応がどの程度必要なのか判断できない
  • アクセシビリティ・バリアフリー・ユニバーサルデザインの違いを整理したい

はじめに:Alt属性から考えるアクセシビリティ

Webサイトを作る際、画像に「Alt属性(代替テキスト)」を設定することがあります。Alt属性とは、その画像が何を表しているのかをテキストで説明する情報のことです。

例えば、商品写真や図表などの画像が掲載されている場合、Alt属性を設定しておくことで、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を利用しているユーザーにもその内容を伝えることができます。

一方、Alt属性が設定されていない場合、読み上げソフトは画像の内容を理解できず、「画像」とだけ読み上げてしまいます。結果として、視覚障害のあるユーザーは、そのページに掲載されている重要な情報にアクセスできなくなります。

このような対応は一見すると小さな技術的配慮に見えるかもしれません。しかし、こうした基本的な設計の積み重ねこそが「アクセシビリティ」の考え方です。

アクセシビリティとは何か

アクセシビリティとは、できるだけ多くの人がサービスや情報にアクセスできるようにする設計思想を指します。

デジタル領域では、例えば次のようなユーザーを想定することが重要になります。

  • 視覚障害があり、スクリーンリーダーを利用してWebサイトを閲覧する人
  • 聴覚障害があり、動画の音声情報を字幕で理解する人
  • 高齢者やデジタルに不慣れで、複雑なUI操作が難しい人
  • 明るい屋外など、画面が見づらい環境でスマートフォンを利用する人

このようにアクセシビリティは、特定の人のためだけの配慮ではなく、多様なユーザーを前提にサービスを設計する考え方と言えます。

バリアフリー・ユニバーサルデザインとの違い

アクセシビリティと似た概念として、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。これらはしばしば混同されますが、実際には次のような関係で整理できます。

バリアフリー

既に存在する障壁(バリア)を取り除く考え方です。例えば建物にスロープを設置したり、エレベーターを追加したりするような対応が典型例です。デジタル領域では、既存システムに後からアクセシビリティ機能を追加する取り組みがこれに近いと言えます。

ユニバーサルデザイン

最初から多様なユーザーが使えることを前提に設計する考え方です。例えば、誰でも直感的に使える自動ドアや、見やすい案内表示などが代表例です。特定のユーザーのためではなく、すべての人にとって使いやすい設計を目指します。

整理すると、ユニバーサルデザインが設計思想、バリアフリーが障壁の除去、アクセシビリティが具体的な実装や状態と捉えると理解しやすいでしょう。

ユーザビリティ・UX・UIとの関係

デジタルサービスの設計では、「ユーザビリティ」「UX」「UI」といった言葉もよく使われます。これらはアクセシビリティと近い領域にありますが、それぞれ意味が異なります。

ユーザビリティ(Usability)

サービスの「使いやすさ」を指します。操作が直感的であるか、目的の情報にすぐたどり着けるかなど、ユーザーが効率よく利用できるかという観点です。

UX(ユーザーエクスペリエンス)

サービスを利用する中でユーザーが得る「体験」全体を指します。操作性だけでなく、満足感や感情的な価値なども含まれます。

UI(ユーザーインターフェース)

画面のレイアウトやボタン、デザインなど、ユーザーが直接触れるインターフェース部分を指します。

アクセシビリティはUXやUIと対立する概念ではありません。むしろUX(ユーザーエクスペリエンス)という概念の中に含まれる重要な要素です。UXとは、ユーザーがサービスを利用する際に得る体験全体を指します。当然その「ユーザー」には、視覚障害や聴覚障害のある人、高齢者なども含まれます。

その意味で、アクセシビリティとは「特別な機能」ではなく、UX設計の対象となるユーザーの範囲を広げる視点と言えるでしょう。

DXとアクセシビリティの関係

DX(デジタルトランスフォーメーション)の目的は、単に既存業務をデジタル化することではありません。テクノロジーを通じて、新しい価値や体験を提供することにあります。もし、デジタルサービスが特定のユーザーしか利用できないのであれば、それは本当の意味での変革とは言えないでしょう。

 そのため近年、DXの議論の中でもアクセシビリティは重要なテーマとして注目されています。

 Webアクセシビリティの国際的なガイドラインとしては、WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)が広く知られています。WCAGではAlt属性の設定に加え、たとえば次のような設計が推奨されています。

  • キーボードのみで操作できるUI設計
  • 十分な色コントラストの確保
  • 動画コンテンツへの字幕提供
  • 読み上げソフトとの互換性確保

日本でも公共機関のWebサイトでは、JIS X 8341-3というアクセシビリティ規格が整備されており、今後は企業のWebサイトやデジタルサービスにおいても重要性が高まると考えられています。

DXとSDGsの観点から見たアクセシビリティ

近年、企業のDX推進においては、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からデジタルサービスを見直す動きも広がっています。アクセシビリティの取り組みは、このSDGsの考え方とも深く関係しています。

SDGsには17の目標がありますが、その中でも特に関係が深いのが次の目標です。

  • 目標10:人や国の不平等をなくそう
  • 目標11:住み続けられるまちづくりを
  • 目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

デジタルサービスが社会の基盤となりつつある現在、もしITシステムが特定の人しか使えないものであれば、それ自体が新たな格差を生み出してしまう可能性があります。逆に言えば、アクセシビリティを考慮したデジタル設計は、誰もが情報やサービスにアクセスできる社会を実現するための重要な取り組みとも言えます。

この意味で、アクセシビリティは単なる技術的な配慮ではなく、DXを社会的価値へとつなげるための重要な視点です。企業がDXを推進する際にも、「誰がこのサービスを利用できるのか」という視点を持つことで、より持続可能で包摂的なデジタル環境を実現することができるでしょう。

アクセシビリティがビジネス価値を生む理由

アクセシビリティの取り組みは、社会的配慮という側面だけでなく、ビジネス上の合理性とも一致します。

経済学者ミルトン・フリードマンは、市場競争の中では差別的な行動は長期的に不利になると指摘しました。特定の顧客や労働者を排除する企業は、その分だけ市場機会を自ら狭めてしまうためです。

デジタルサービスにおいても同様で、アクセシビリティを欠いた設計は、結果として利用できるユーザー層を狭めることになります。逆に、多様なユーザーが利用できるサービスは、その分だけ潜在的な利用者を広げることになります。この意味で、アクセシビリティは、単なる社会的配慮ではなく、持続的なビジネス価値にもつながる設計と言えるでしょう。

まとめ:アクセシビリティは「追加機能」ではない

DX推進の現場では、アクセシビリティを「後から対応する追加機能」として扱ってしまうケースも少なくありません。しかし、本来アクセシビリティはサービス設計の初期段階から考慮すべき要素です。

多様なユーザーを前提に設計することで、結果としてUI/UXの品質が向上し、より多くの人が利用できるサービスにつながります。

DXを「単なる技術導入」で終わらせないためにも、DXを単なる技術導入で終わらせないためにも、アクセシビリティという視点を設計の出発点に置くことが、これからのデジタルサービスには不可欠です。


筆者:W.S.

ITガバナンスおよび市民開発推進を得意領域とするコンサルタント。中堅〜大手企業のIT統制設計・DX推進支援に従事。
個人開発者としてJavaScriptおよびFirebaseを用いたWebアプリ開発にも取り組み、開発現場と統治設計の両面からDXを研究している。
同志社大学大学院経済学研究科博士後期課程修了単位取得退学。


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