――静かすぎるのだ。
社員数50名、都内のビルの一角にある中小システム会社「ワークプレッジ」。朝9時出社がルールだが、出社時間の報告方法はSlack、業務報告は別のExcel、残業申請は紙、そして勤務時間の集計は経理部が月末にエイヤと締めるスタイルだった。
総務部の丸山達也は、その混沌の中心にいた。
「あれ? この人、今週月曜は出社だったっけ?リモートだったっけ?」
「出社してたって言ってたけど、出勤簿は空白なんですよ」
「でも業務報告には“午前中リモート”ってあるよ……」
机の上には、印刷された報告メール、未整理の紙の申請書、二重入力されたExcelファイルが積み重なっていた。
「また確認か……」
丸山は、深いため息をついた。
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報告と記録がバラバラで、確認のたびに時間が取られ、信頼性にも欠けている。社員は「書くのが面倒」「どこに入力すればいいかわからない」と口をそろえる。上司は「見たけど、間違ってるかもしれないな」「あとでまとめて確認するよ」と後回し。
結果、勤怠不備、報告ミス、労基署からの是正勧告寸前という状況だった。
社長の一言が、全ての引き金になった。
「丸山君、もうこのままじゃダメだ。何か、抜本的に変えられないか?」
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数日後。
社内チャットに、丸山が短く投稿をした。
その名を見たとき、ほとんどの社員は鼻で笑った。
「まるっと勤怠? なにそれ、ゆるキャラの名前?」
「また面倒なシステム増やすの? 結局使わないよ」
だが、丸山はめげなかった。
誰よりも、現場の苦労を知っていたからだ。
「書けと言われて書くものじゃない。“書く意味”が伝わるしくみがないと、人は動かないんです」
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アプリ本体は無料で配布されており、kintoneに取り込むだけで使えた。
「これ、いいな……出社報告も、業務報告も、残業申請も、全部この1画面からできる」
現場のエンジニアがぽつりと漏らした一言が、社内の風向きを変えた。
使えばわかる。
・勤怠と業務報告が1つのフォームに統合されている
・入力はスマホからでも数分で終わる
・管理職は一目で確認・承認でき、未入力者には自動通知
「これ、ちゃんと記録残ってるのか?」
「もちろん。あとでCSV出力や集計もできます。オプションですが、必要に応じて段階的に導入できます」
“全部いきなり変える”必要はない。必要なところから、少しずつ。
それが「まるっと勤怠」の最大の強みだった。
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導入から3か月。
「え、あの山下さんが毎日ちゃんと業務報告出してるの?」
「しかも内容が以前より具体的。分析しやすい!」
管理職たちの目が変わった。
報告が見やすくなり、残業時間も可視化され、働き方の偏りが数字で“見える”ようになった。
「先月のリリース対応、残業時間すごいな……ちょっと働き方、見直さないと」
「有休もバランスよく取らせた方がいい。偏ってるな」
労働基準法の遵守、過重労働の未然防止。丸山が長年口にしても誰も動かなかったそれが、今は自然と経営層の議題に上る。
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ある日、丸山のもとに、あの“鼻で笑っていた”営業部の佐伯がやってきた。
「なあ、丸山さん。ありがとうな。あの『まるっと勤怠』ってやつ……実は、けっこう助かってる」
「どうしてですか?」
「上司に口で説明してた“働いてる感”が、ちゃんとデータになって伝わるんだ。うちの仕事って、外出も多いし、家でメール見てる時間もある。でもそれって記録に残りづらかったろ?」
丸山は、少し微笑んでうなずいた。
「記録されない努力って、虚しいですからね」
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その夜。丸山は自宅のリビングで、缶ビールを片手に、アプリの管理画面を見つめていた。
利用者はすでに社員の98%。
CSV出力オプションは、経理部からの要望で導入され、月末処理の時間が3日→1日に短縮された。
そして次のアップデートでは、残業アラートの自動通知も加わる予定だ。
社長からのメールがスマホに届いた。
「君のおかげで、“働き方改革”って言葉が他人事じゃなくなったよ」
「“まるっと勤怠”は、うちの働き方を“まるごと”変えてくれたんだな」
丸山は返信せず、ただ画面を見つめたまま、ビールを一口、静かに飲んだ。
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