「DXを進めてください。」
そう言われたとき、何から手を付ければいいのか、即答できる業務リーダーは多くありません。予算はついた。ツールも選定した。プロジェクトも立ち上げた。それでも現場は思ったほど動かない。会議は増えるが、何が変わったのか分からない。「結局、DXって何だったんだっけ?」という空気が漂い始める。
この状態に心当たりがあるなら、それは珍しいことではありません。多くのDXプロジェクトは、能力不足や努力不足ではなく、最初の前提のズレによって停滞します。
DXがうまくいかないとき、こんな言葉が並びがちです。「現場がついてこない」「ITリテラシーが足りない」「組織文化が変わらない」
もちろん、これらが無関係だとは言いません。ただし、これらは多くの場合「原因」ではなく「結果」です。では、もっと手前にあるものは何でしょうか。
結論から言えば、それは「問い」です。そしてこれは、担当者の能力や熱意の問題ではありません。
リーダーシップ論で知られる経営学者サイモン・シネックは、著書『Start with Why』(邦題:『WHYから始めよ!』)の中で、人を動かすのは「何をするか(What)」でも「どうやるか(How)」でもなく「なぜやるのか(Why)」であると述べています。
彼は、優れた組織やリーダーは、「Why → How → What」の順で語ると指摘しました。DXプロジェクトに当てはめれば、「どんなツールを入れるか」や「どう進めるか」を考える前に、「なぜそれを変えたいのか」を共有する必要がある、ということになります。
一方で、多くの組織は逆です。何を導入するか(ツール・施策)。どう進めるか(体制・ロードマップ)。その一方で、なぜDXを進めるのかについては、往々にして従業員の間で認識の齟齬が起きがちです。「わが社でDXが必要なのはこういう理由があるからなのか」と腹落ちしなければ、従業員が自ら進んでITを学んだり、組織文化が変容したりしないのは当然のことなのです。
例えば、歴史を振り返ると、江戸時代末期の薩摩藩も、当初は尊王攘夷を掲げていました。しかし、イギリスとの衝突を通じて現実を直視し、方針を切り替える決断をします。ここで重要なのは是非善悪ではなく、「なぜ変わるのか」という理由が共有されたとき、組織の行動も一気に変わったという点です。
Whyが共有されれば、組織は変わります。DXにおいても同じで、「なぜ変えるのか」が腹落ちしたとき、初めて現場の行動が変わり始めるのです。
Whyが十分に共有されないままDXを進めると、現場では次のようなズレが起きやすくなります。
ズレ① 施策が目的化する
ERP更改、クラウド移行、RPA導入、データ活用──。本来は手段であるはずの取り組みが、「やったかどうか」自体を評価される対象になってしまうケースです。なぜそれをやるのかが曖昧なままでは、施策は増えても成果は見えにくくなります。
ズレ② 関係者ごとに“正解”が違う
経営層はスピードを求め、IT部門は安定性を重視し、現場は負担増を警戒する。それぞれが合理的に動いているにもかかわらず、全体としては前に進まない。これは、共通のWhyがないまま走り出している状態です。
ズレ③ 担当者が疲弊する
DX推進担当や業務リーダーが、「結局、自分は何を成功させればいいのか分からない」状態に陥ります。このとき問題なのは、スキル不足ではなく、判断軸が与えられていないことです。
ここで誤解されがちなのですが、DXにおけるWhyとは、耳障りのよい理念やスローガンを掲げることではありません。むしろ、DXの現場で必要とされるWhyは、次のような問いの形をしています。
これらの問いに、すぐに明確な答えが出る必要はありません。重要なのは、「この問いを考える必要がある」という認識を、関係者の間で共有することです。
DXが難しいのは、正解がないからではなく、問いを誰が引き受けるのかが決まっていないからなのです。
市民開発やノーコード/ローコードの取り組みでも、同じ構造が見られます。ツールの性能や現場のITスキル以前に、
といったWhyが整理されていないと、市民開発はすぐに形骸化します。(こちらの記事を参照)
市民開発とは、単に「現場に作らせること」ではありません。問いを立て、業務の意味を考える責任を、組織の一部から分散させる取り組みでもあります。だからこそ、Whyが共有されていない状態でツールだけを展開しても、期待した効果は出にくいのです。
サイモン・シネックの言う「Start with Why」は、DXにおける万能薬ではありません。むしろ、
を整理するための出発点です。
DXプロジェクトの始め方とは、正しいツールや施策を選ぶことではなく、なぜ変えるのか、何を問いとして置くのかを言語化することなのです。
私たちは、Microsoft Power Platformをはじめとするツールを強みとしていますが、導入そのものを目的にするのではなく、業務や判断のあり方をどう変えたいのかという問いから整理することを重視しています。
私たちは、業種や規模を問わず使えるDXの正解テンプレートを持っていません。組織ごとに抱えている問いは異なるからです。
その代わり、
を一緒に整理するための、30分の対話の時間を用意しています。
「DXを進めろと言われたが、何から始めればいいのか分からない」や「途中までやってみたが、なぜ動かないのかを整理したい」といった悩みを抱える業務リーダーの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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筆者:W.S.
ITガバナンスおよび市民開発推進を得意領域とするコンサルタント。中堅〜大手企業のIT統制設計・DX推進支援に従事。個人開発者としてJavaScriptおよびFirebaseを用いたWebアプリ開発にも取り組み、開発現場と統治設計の両面からDXを研究している。同志社大学大学院経済学研究科博士後期課程修了単位取得退学。