リモートの仮面

リモートの仮面

「まただよ……」

谷口は、ノートパソコンの画面を見つめながら小さく嘆息した。会議の参加者が続々とログインしてくる中、その一人――広報部の早川だけは、いつものようにカメラをオフにしていた。名前の横には、真っ黒なサムネイルがぽつんと映るだけ。アイコンもなく、表情もなく、声だけが無機質に響く。

「すみません、子どもが騒いでいて……あと、ちょっと今日はノーメイクで……」

毎度のように添えられるその言い訳に、谷口はもう驚かない。だが今日ばかりは、堪忍袋の緒が切れかかっていた。というのも、この会議は新規プロジェクトの立ち上げに関わる重要な場だったのだ。参加者の顔が見えず、反応が読めないままでは、進行役として判断がつかない。

そのうえ、議事録担当の佐藤が突然こう言い出した。

「ちょっとこの画面、記録に残しておきたいので……キャプチャ撮りますね!」

パシャ。

無断でスクリーンショットを撮られ、谷口の顔が硬直する。リアルの会議室で、相手に断りもなく写真を撮る者がいただろうか? 背筋に冷たいものが走った。


かつて、会議とは緊張感のある「場」だった


空気の温度や相手の視線、わずかなため息さえも、議論の流れに影響を与える。谷口はその感覚を知っていた。30年以上、オフィスで生きてきた。

「リモートだと効率的でいいじゃないですか? 移動時間もないし、家の方が集中できますよ」

若手社員の宮本が、昼の雑談で言っていた言葉が頭をよぎる。たしかに利点はある。だが、最近の会議での振る舞いを見ると、もはや「効率」以前の問題ではないかと思えてならなかった。

「画面オフで会議に参加するのって、リアルで言えばお面かぶって入ってくるようなもんだぞ……」

ぼそりとつぶやいた自分の声が、部屋の静けさに吸い込まれていった。


対面ミーテーティング

数日後、谷口は思いきって「対面ミーティング」を提案した。会議室に集まるのは半年ぶり。なんとなく緊張した空気の中、顔を合わせての打ち合わせが始まった。

不思議だった。みな、以前よりよく話す。早川も、ちゃんと目を見て意見を述べている。佐藤も、冗談交じりに「今日こそ記念写真撮りたいですね」と言ったが、さすがに谷口の表情を見て自重した。

「……結局、リモートが悪いんじゃないんだな」

谷口は思った。

リモートを「正義」と盲信し、その中でのモラルや配慮を忘れてしまった人々の姿勢こそが、問題だったのだ。リモートはあくまでツール。補完手段であり、手段が目的にすり替わってはいけない。

ふと、隣で苦笑いしていた早川が言った。

「やっぱり、顔が見えるって大事ですね。何か、心の準備も変わるし、話すことへの責任も重くなる気がして……」

その言葉に、谷口は深く頷いた。


会議の目的からどうしたらいいかを考えてみよう

「“リアルだったらどうするか”を、考えるだけで違ってくる。そうやって、リモートの中にリアルの感覚を持ち込める人が、これから信頼されていくんだろうな」

会議後、谷口は小さな提案書をまとめた。タイトルは「リモートワーク時代の“リアル思考”コミュニケーション指針」。

オフィスに戻っても、リモートでも、人は人と信頼でつながっていく。

そのために必要なのは、ツールではなく――ちょっとした想像力と、ほんの少しのモラルなのだ。

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